夢は「持つ」から「試す」時代へ
―正頭英和先生に聞く、こどもの可能性を広げるキャリア教育の視点

2026.7.31 学びのヒント
前編では、こども達とのコミュニケーションに重要な「言葉の解像度」や、学びのレンズで新しい世界を見ること、その学びの入り口には楽しさが大切なことなどを小学校教諭の正頭 英和先生に伺いました。
続く後編のテーマは、これからの時代におけるキャリア教育や探究学習のあり方です。 社会の変化が加速し、多様な選択肢が広がる一方で、こども達がまだ見ぬ自分の「好き」に出会う機会には「体験格差」が生まれやすいともいわれています。「将来の夢は何?」という問いかけに対し、こども達が身構えてしまうのではなく、自由に自分の可能性を広げていくために、私たち大人はどのようなサポートができるのでしょうか。
予測が難しい未来に向けて、こども達がもっと軽やかに「夢」の種を見つけ、学校を「より安心して挑戦できる場」にしていくためのヒントを、今回の後編で紐解いていきます。
正頭先生が提唱する「夢を試す」という新しい捉え方や、多忙な教育現場を支える「キッザニア オンラインカレッジ」活用術など、教育現場にポジティブな変化をもたらす視点をぜひご覧ください。

【インタビュー】正頭 英和 先生

立命館小学校教諭・正頭英和先生

小学校教諭。東京大学客員研究員。
関西外国語大学を卒業後、関西大学大学院で外国語教育学修士を取得し、京都市公立中学校、立命館中学校・高等学校を経て現職。教育界のノーベル賞と言われるGlobal Teacher Prize 2019において、日本人で初めてトップ10に選出され「世界の優秀な教員10人」に。
「桃鉄教育版」プロジェクトにエデュテイメントプロデューサーとして参加しており、同教材は、これまでに、10,000教室を超える学校に導入されている。
また、Forbes JAPAN(2026年8月号) アントレプレナーシップ教育特集でインタビューが掲載されるなど、次世代の教育を牽引する存在として注目を集めている。
著書に『世界トップティーチャーが教える 子どもの未来が変わる英語の教科書』(講談社)がある。
〔出典:公益財団法人日本漢字能力検定協会「ティーチャンネル」『世界トップティーチャーが教える 子どもの未来が変わる英語の教科書』(講談社)

キャリア教育の再定義―夢は持つより、まず「試す」

―あらためて、変化の激しい時代を迎えていますが、これからのこども達にとってどのようなキャリア教育やキャリア観が必要だとお考えですか?

昭和や平成の時代は、「夢を持つ」ことや、努力して「いつか夢を叶える」ことが美しいとされてきましたよね。しかし、変化の激しい令和の時代は、夢を「試す」時代になってきたと感じています。遠い未来の目標にするのではなく、環境が整っている今だからこそ、すぐにできることからどんどん試してみることが大切です。とりあえずやってみるという「挑戦のハードル」を、大人がいかに下げてあげるかが重要ですね。

正頭先生は著書『子どもの未来が変わる英語の教科書』(講談社)でも、AI時代の教育論として「子どもに将来の夢を聞いてはいけない」「いちばん強いのは、失敗できる子」と提起しています。本記事で語られる「夢は持つより、まず試す」というキャリア観は、こうした著書での一貫した主張に基づくものです。
〔出典:『世界トップティーチャーが教える 子どもの未来が変わる英語の教科書』(講談社)

―「まずは試してみる」ことの積み重ねが大切なのですね。

はい。そのために、幼少期の体験のあり方がとても大きな意味を持っていると思います。体験の幅が狭いと失敗の経験も少ないので、どうしても失敗を恐れて、結果として挑戦のコストが上がってしまいますよね。しかし、様々なことを広く浅く体験し、うまくいったことやいかなかったことを繰り返していくと、「とりあえずやってみるか。失敗しても大丈夫」という感覚が自然と身についていきます。なので、小学4年生くらいまでは、一つのことを深く掘り下げるよりも、とにかく体験の横軸を広げてあげることが、将来への大きな武器になるはずです。

―なるほど。失敗しても大丈夫と思えることは重要ですね。

そうなんです。私はよく、こども達が動き出しやすいように「とりあえずやってみよう」という言葉を、「調べてみよう」「作ってみよう」「試してみよう」と具体的なアクションに言い換えることがあります。こういった具体性を持った言葉一つで、挑戦のハードルはぐっと下がります。さらに言えば、こういった「調べる・作る・試す」のいずれかは、キッザニアのパビリオンで行われていることですよね。そういう意味では、キッザニアはやはり体験の幅を広げる挑戦の場として、良い環境だと思います。


探究学習は「命を守るための練習場」であり「自己探求の場」

―体験の中で「失敗する」ことについて、もう少し掘り下げてお伺いしたいと思います。「失敗」には、どのような意味があるのでしょうか?

少し極端に聞こえるかもしれませんが、私は探究学習の真の目的は「命を守るため」だと考えています。大人になって社会に出た時、初めて大きな失敗を経験して、深く思い悩んで立ち直ることが難しくなってしまう、ということは起こります。そこで立ち直れるようになるために、こどもの頃に「そこそこの時間と労力をかけたけれど、うまくいかなかった」という失敗の経験を何度か積んでおくことが不可欠です。

正頭先生は著書『世界トップティーチャーが教える 子どもの未来が変わる英語の教科書』(講談社)の中で、「AI時代に必要となるのは『問題解決』ではなく『問題発見』できる人間」であり、「教育は『知識』重視から『経験』重視へとシフトする」と説いています。失敗を含む豊かな経験の中でこそ、自ら問いを立てる力が育つ——探究学習を「練習場」と捉える本記事の視点は、この主張と深く重なります。
〔出典:『世界トップティーチャーが教える 子どもの未来が変わる英語の教科書』(講談社)

―そうなると、こども時代の探究学習が「失敗の練習場所」になるということですか?

ええ。実は、ある卒業生が、大人になってから、「先生は教室で『失敗してもいい、チャレンジしろ』と言ってくれたけれど、学校では失敗できなかったですよ」と言ったんです。たしかに、こどもが転びそうになると、どうしても先生や保護者が手厚くサポートしてしまいますよね。テストでも正解を出せるように教えます。様々なリスクヘッジを考えると当然のことなんです。だからこそ、正解や決まった型のない探究学習のような場が「堂々と失敗できる唯一のセーフティネット」になるのだと思っています。「自己探求の場」では、こども達が思い切り挑戦して、安全に失敗できる環境を作る、それが私たちの大きな役割ではないでしょうか。

―確かに、安心して失敗できる場をつくるのは、大人の役割だと思います。さらに、失敗から自分を知ることも、探究学習の一つといえそうですね。

おっしゃる通りです。私はこれを「自己探求」と呼んでいて、今一番大切だと感じているテーマでもあります。自分はどういう人間で、どういう性格なのか。例えば、何十年も生きてきた大人であっても、年齢や性別といった客観的な事実以外で、自分のことを一言で言える人は案外少ないものです。 だからこそ、「自分はこの勉強方法は合わないから、こっちのやり方が合う」とか、「大勢の前で話すのは苦手だけど、少人数のグループなら力を発揮できる」といった自分自身の『取扱説明書』を探求する。自分がどういう人間かを若いうちに深く知り、たくさん失敗して試しておくことが、これからの時代を生き抜くためのとてつもなく強力な財産になるはずです。

現場での活用術 すべてのモノの裏に人がいる―「キッザニア オンラインカレッジ」の視点

―体験の幅を広げたくても、学校では難しいということはありますか?

そうですね、学校での体験には限界があります。そのため、キッザニアのような施設があるのかな、と思います。しかしそうなると、こういった場所に足を運ぶことが難しい場合、こども達の間に「体験格差」が生まれてしまう懸念があります。体験できる子はどんどん成長し、できない子は機会を逃してしまう。

―確かに、キッザニアへご来場いただくのは、距離の問題がありそうですね。そうなると、オンラインのプログラムが大きな役割を果たしそうです。

そうですね。キッザニアが提供している「キッザニア オンラインカレッジ」のようなデジタルコンテンツの活用は、確かにこども達の体験格差の解消に役立つと思います。オンラインカレッジを拝見したのですが、動画教材があり使いやすいですね。


―動画教材はこども達にとってなじみがあるということでしょうか。

はい、今のこども達は動画教材との相性が非常に良く、動画から学ぶスタイルが主流になっています。そういう点では、オンラインカレッジの動画は短くまとまっているので、給食の時間や朝の会、あるいは身体測定の待ち時間などのちょっとした「隙間時間」に活用するにはぴったりです。

―「キッザニア オンラインカレッジ」は色々と活用方法がありそうですね。

そう思います。例えば総合的な学習の時間に行うキャリア教育で、地域の方をお呼びして…となると大掛かりになり負担が大きくなります。そのため、まずは隙間時間にオンラインカレッジの動画を見せて「世の中にはこんな仕事があるんだ」と好奇心の種をまいてみる。その時に理想的なのは、ただ仕事を見るだけでなく、「すべてのモノの裏には人がいる」という視点をこども達に持ってもらうことです。例えば、自分が身につけている時計を見たときに、「この時計がここにある裏には、デザインした人、組み立てた人、運んだ人など、何十人、何百人もの仕事をしている人が必ずいる」ということに想像を巡らせてみる。そう考えられるようになると視野がぐっと広がり、世の中を面白がれるようになって、「自分も何かやってみたい」という前向きな循環が生まれていくはずです。

―モノの裏側に「人」が見えることで、自分は将来そのモノに携わる仕事をしたい、といった当事者意識も芽生える可能性がありますね。

そうですね。さらに言えば、日本のこどもは、まだまだ「自分の学びが社会でどう役立つのか」という橋渡しが、あまりされていないのだと思います。なので、動画を通して「国語や算数といった日々の学びが、社会のどんな仕事に繋がっているのか」を感じることで、学習へのモチベーションも自然と高まっていくはずです。

先生方への応援メッセージ―モチベーションの正体は「体力」

―探究学習やキャリア教育についてお伺いしましたが、こういった学びの準備をする先生方は本当にお忙しいことと思われます。そういう多忙な先生方が新しいことに挑戦するためにどうすれば良いのか。例えば、正頭先生ご自身はどのように教育へのモチベーションを維持されていますか?

実は私、自分の「モチベーション」というものを全く信じていないんです。

―信じていない、ですか?

はい。モチベーションの正体とは、突き詰めれば「体力」だと思っています。人は何か新しいことをやろうと思っても、疲れてしまっていると絶対にやる気は出ませんよね。つまり、モチベーションを高く保つためには、体力と比例する部分が非常に大きいのです。だからこそ、私は無理にやる気を振り絞るのではなく、日頃から「体力をつけること」にフォーカスしています。先生方にとっても、まずはご自身の体力を守り、健やかでいることが、結果として教育への情熱や挑戦への活力に繋がっていくはずだと思っています。


―体力がベースにあってこそ、挑戦できるのですね。

ええ。そしてこれからのAI時代、どんな状況でも前向きに楽しめるような「知的好奇心」が何よりも重要だと考えています。こういった「知的好奇心」を持ち続けるために、先生方には、こども達に「夢を試そう」と伝えるだけでなく、ご自身にもぜひ、たくさんの夢を試していただきたいです。

―先生も夢を試す。

そうです。私は「年齢を言い訳にしない」と決めています。実際に、人は年齢の境界線を取っ払うだけで、ぐっと世界が広がります。先日も50代後半くらいのベテランの先生から「こういう授業に挑戦してみたいんだけど…もう年だしなあ」と相談を受けた際、「先生、年齢なんて関係ないですよ!気持ちだけの話です」と背中を押させていただきました。年齢にかかわらず、「こんな教育をしてみたい」という夢があることは素敵ですし、どんどん試して欲しいです。何より、先生がワクワクしながら挑戦している姿は、必ずこども達に伝わります。
そういう意味では、キッザニア オンラインカレッジの動画を見る時も、「なんでこれ、こうなってるんだろうね?」と、こどもよりもちょっとだけ高い熱量で一緒に見て、面白がってみてください。先生が興味を持つものに、こどもは必ず興味を持ちます。先生ご自身の知的好奇心を大切にしながら、こども達と一緒にたくさんの体験を楽しんでいただけたらと思います。


2回にわたり、正頭先生と共に学ぶことの楽しさや探究学習の意義などについて紐解いてきました。
こども達が挑戦を恐れることなく夢の種に触れていくために、大人の役割としてさまざまなことが考えられると思います。今回のインタビューでお届けした数々のヒントが、こども達の未来を広げるきっかけの一つになれば幸いです。キッザニアは、これからも一人ひとりの好奇心に寄り添い、こども達がのびのびと夢を試すことができる環境づくりに努めてまいります。
前編はこちら

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