キッザニア×ローレンス先生|学習環境でやる気を引き出す工夫とは?【後編】

2026.4.17 学びのヒント
前編に続き、ミシガン大学のグレゴリー・ローレンス先生のインタビューの後編です。
今回は、経営学がご専門のローレンス先生に「職場環境」、併せて「学習環境」の視点から、「やる気が上がる」環境づくりについてお伺いしています。そのお話の中で、モチベーションは、個人の資質だけでなく、実は身の回りの環境にも左右されることが見えてきました。また、日本とアメリカの両方で教員経験のあるローレンス先生ならではの視点で、それぞれの国の学習環境の違いや、それぞれの良さを生かした場づくりの方法を探ります。

【インタビュー】Gregory Laurence 先生


ミシガン大学フリント校経営学部マネジメント&マーケティング学科長、同大学アナーバー校日本研究センター大学院課程ディレクター。職場や働き方の多様性、空間設計やパーソナライゼーションに関する研究に取り組み、『Academy of Management Journal』など多数学会誌に論文を発表。交渉術やリーダーシップ、組織行動論を教えるほか、日本文化とビジネスを結ぶ海外研修プログラムを毎年実施。経営学の視点から、職業体験の教育的価値を探るため、『キッザニア白書2025』の共同研究に参画。

学習環境はこどもの「やる気」にどう影響するか


ここからは、ローレンス先生のご専門である「やる気の高まる環境」について深掘りしていきたいと思います。
そもそも「環境」というのは、そこにいる人の気持ちや行動に、どのような影響を与えているのでしょうか?

環境は、人にとって非常に重要なものです。環境は、人の成功を後押しすることもあれば、逆にハードルになってしまうこともあります。

「成功を後押しすることもあれば、ハードルにもなる」という言葉、とても興味深いです。
何かイメージしやすい例えはありますか?

サッカー場を思い浮かべてみてください。サッカーをするのに適したフィールドで、芝生も美しい完璧なサッカー場です。しかし、その完璧なサッカー場を丘の上に作るとしたら、サッカーをすることがすごく難しくなると思います。丘を登ったり、下ったり、全員が斜面にいるような状態であれば、最高のパフォーマンスをすることは難しいですよね(笑)。

確かに、どんなに技術があっても斜面ではまともに試合ができませんね!

はい。見た目がどれだけ完璧でも、「丘」にあることが、サッカー選手にとってパフォーマンスを損なわせる原因になります。職場や学習環境においても、全く同じです。集中したいのに、にぎやかすぎる場所だったら、他の環境が整っていても、作業を妨げます。人が効率的に活動するためには、まずは目的に合わせて空間を「正しく整える」ことが大切なのです。

「場を整える」ことが、実力を発揮するために何より大切なのですね。
では、誰にとっても「これが正解」という「良い環境」の形はあるのでしょうか?

それは、人によって違うものだと思います。例えば、働く環境として、個室のような空間で働きたい人もいれば、オープンな環境で働きたい人もいるように、その人が持つ背景や文化によってニーズは変わると思います。そういう意味でも、良い環境というのはさまざまな状態をミックスして、「選択肢のある場所」ということなのではないかと考えています。

日本とアメリカの学習環境から学ぶ、こどもの主体性とオーナーシップ


「選択肢」がキーワードですね!興味深いです。
さきほど、文化によるニーズの違いというお話がありましたが、
日本・アメリカ両方で教壇に立たれていたローレンス先生から見て、学習の環境づくりには違いがありますか?

一番の大きな違いは「個人主義」と「集団主義」のどちらを重視しているかだと思います。日本の中学・高校では「集団主義」的な考え方が強く、生徒たちは一日中、同じメンバーが自分達の教室で過ごします。そして、時間になれば担当の先生が授業を教えに来るスタイルですよね。なので、日本の教室のオーナーシップ(所有感)は、生徒達、あるいはクラスにあるように見えます。

確かに、「自分たちの教室」という感覚は強いですね。
では反対にアメリカの学習環境はどのようなものですか?

アメリカでは、先生が同じ教室にいて、生徒は自分が選択した科目の授業を受けに、毎時間、先生の居る教室へ移動します。まず、これが日本と正反対ですね(笑)。また、高校まで義務教育なので、大学進学を目指す生徒や高校を出て就職する生徒など、目指す進路が違う生徒が同じ学校に通学します。そのため、一人ひとりが受ける授業を選択することになり、結果として個人が自分のスケジュールを管理するようになります。こういう環境が「個人主義」的な考え方の背景にあるのかもしれませんし、それが自立を促すようにも思います。

日本では、大学生で初めて経験する学校内での「自立」をアメリカではもっと早く経験するのですね。
そのほかに、何か違いがありますか?

日本の学校は、生徒が自分たちの使用した教室を掃除しますよね。アメリカは、教室は学校のものという考え方なので、教室の清掃も、専門の清掃員さんが担当します。この点については、日本のように生徒自身が清掃することで、「自分達の使う場所を大切にしよう」という気持ちが育まれるのかなと思います。そうすると教室を大切にするため、そこは素晴らしいと思っています。

どちらが良いではなく、それぞれの文化に根差した良さがあるのですね。

はい。日本の「集団主義」もアメリカの「個人主義」もそれぞれに良いところがあるので、互いの良いところを取り入れられたら、より良い教育の環境が作れるのではないでしょうか。

こどものやる気を引き出す学習環境の作り方と工夫


環境を整えるとやる気がアップ!というお話をお伺いしましたが、「こどもの学びたい気持ち」を引き出すには、どういう環境が良いのでしょうか?

まずは、落ち着いて勉強できる環境があることが何より大切だと思います。そのうえで重要なのは、自分自身のモチベーションがどこから来るのかということを、自分自身が知っていないといけないと思います。

自分の「やる気になるポイント」を知るということですか?

はい。職場のお話になりますが、例えば、アメリカの会社では、「家族のために」仕事に取り組んでいる人が多く、家族の写真をデスクに置いている光景をよく見ます。それは、「家族のためにがんばって働くぞ」という気持ちをもたらし、モチベーションが上がるからだと考えられます。

なるほど。分かりやすいですね。
しかし、こどもに限らずですが、自分が「やる気になるポイント」がどういうものなのか、それを見つけることは少々難しそう、とも思います。

そうですね。特に、幼いこどものうちは、大人から与えられた環境の中で学ぶことが多く、自分にとって良い環境ということがどんなものか、認識しづらい状況かと思います。だからこそ、周囲の大人がサポートをして、そのこども自身の「好き」に目を向けられるように始めてみるのが良いかもしれません。また、こどもがセルフコントロールできるような年齢になったら、こども自身が好む学びの環境を尊重する、という事もあっても良いですね。

ローレンス先生自身が、教える立場として、教室の学習環境で工夫したことなどはありますか?

日本に来たばかりのころに英会話の先生をしていて、その際に生徒とのコミュニケーションツールとして、教室に流行りのドラマのポスターなどを貼ったことがありました。もちろん、英語学習のためのポスターも掲示しましたが、生徒が興味をもっている、つまり「話したい」と思える素材を提示することが重要だと思っていました。

ドラマのポスターですか?意外ですね!

中学生くらいになると、先生に対してシャイになってくるこどもが増えますが、同じ話題で話せることがあると「あ、先生もこれ好きなの?」とコミュニケーションのきっかけになります。これも自分の「好き」に気づくことであり、モチベーションが上がる一つのヒントかなと思っています。

教育現場で実践できる、こどものモチベーションを高める環境づくり

やる気を向上させる環境の中に、「好き」や「興味」というエッセンスは重要なようですね。
最後に、教育現場で日々こども達と向き合っている先生方へメッセージをお願いします。

お伝えしたいことは、2つあります。1つ目は、学習環境の視点で、「リアルさは友達」という考え方です。『キッザニア白書2025』の研究結果でも述べていますが、リアルさは学びの重要な要素です。そして、身近な授業の中でも「リアルな体験」を実践できることがあると思います。例えば、授業の中に「ロールプレイ」を取り入れることも、方法のひとつかもしれません。クラスの中に「将来、先生になりたい」と言っている生徒がいたら、実際に授業の一部で「先生」になってもらうこともリアルな体験だといえます。ただ、ロールプレイで多くの職業を体験することは少々難しいです。その時はぜひキッザニアでの体験の機会を考えてみてください。
もう1つは、先生自身のモチベーションの保ち方として、先生自身のモチベーションがどこから来るか、について改めて考えることも大事だと思います。「なぜ先生になったんだろう?」、「きっかけはなんだっけ?」など、先生として教えることの原点にあるパッションを思い出してみてください!それを考えることで教えることの楽しさや意義を再確認できると思います。

「環境」を味方にして子どものやる気を伸ばすヒント


2回にわたり、ローレンス先生と共に「自己効力感」と「環境」の関係を紐解いてきました。
前編で伺った、ユニフォームがこどもを「社会の一員」へと切り替えるスイッチであること。そして、後編で伺った、一人ひとりの「好き」を尊重する場づくり。環境は、時に成功を後押ししてくれる重要な存在になることが分かりました。
こども達の環境を整え、その環境を「味方」にするために、大人の役割としてさまざまなことが考えられると思います。例えば、ローレンス先生がお話しくださった「ポスター1枚から始まるコミュニケーション」や「教えることの原点にある想い」といったヒントが、こども達が「話したい」「やってみたい」と思えるきっかけの一つになれば幸いです。キッザニアでも、一人ひとりの気持ちに寄り添い、こども達の内なるやる気を引き出せる環境づくりに努めてまいります。

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