キッザニア×ローレンス先生|自己効力感を高める“ユニフォームの力”【前編】
今回は刊行を記念して、ローレンス先生へのインタビューを実施しましたので、その内容を2本立てでお送りします。
前編はユニフォームが引き起こす「魔法」を深堀りするほか、「リアル」を追求するキッザニアという空間だからこそ見えてきた、自己効力感を育むためのヒントをお届けします。
【インタビュー】Gregory Laurence 先生

ミシガン大学フリント校経営学部マネジメント&マーケティング学科長、同大学アナーバー校日本研究センター大学院課程ディレクター。職場や働き方の多様性、空間設計やパーソナライゼーションに関する研究に取り組み、『Academy of Management Journal』など多数学会誌に論文を発表。交渉術やリーダーシップ、組織行動論を教えるほか、日本文化とビジネスを結ぶ海外研修プログラムを毎年実施。経営学の視点から、職業体験の教育的価値を探るため、『キッザニア白書2025』の共同研究に参画。
キッザニアのユニフォームは自己効力感にどのような影響を与えるのか?
2023年から約2年間、日本とアメリカで海を越えての共同研究となりました。本当にありがとうございました。
まずは、その研究テーマについてお伺いします。
なぜ、キッザニアのユニフォームに注目をしてくださったのでしょうか?
初めてキッザニアに来たとき、まず素晴らしいと思ったのは空間でした。パビリオンのデザインや空間が本当に「格好いい!」と感じました。しかし、テーマパークはおおよそ全部、きれいに造られていますよね。そんな中で、他のテーマパークとキッザニアには大きな違いがあることに気づきました。それが、こども達が着用するユニフォームです。こども達がキッザニアの中で、仕事を体験するたびに、その仕事のユニフォームに着替える様子に、私は「おや、これは他と違うぞ!」と思いました。

その違いから、研究テーマにたどり着いたんですね!
はい。そこで、「ユニフォームを着ることは、こども達に何をもたらすのだろう」という疑問が浮かびました。例えば、日常生活とは違ういわゆる「非日常」という感覚になるのか?など。そして、私にはそれがとても興味深いことに思えました。
「非日常」、なるほどです。私たちもゲストの方から「没入感」がある、というお言葉を頂戴することがあります。何かしら関係がありそうですね。
ちなみに、ユニフォーム・マジックという言葉はどのような意味でしょうか?
ユニフォーム・マジックという言葉は、一緒に研究をしたKCJ GROUPのアカデミーラボから、キッザニアのスタッフが「ユニフォームを着たこども達の姿が、輝いているように見える」と話している、ということを聞きました。そこで、その様子に親しみを込めて「ユニフォーム・マジック」と呼んだのが始まりです。
「ユニフォーム・マジック」という言葉には、「魔法」や「なぞ」といった響きがありますね。
そうですね。こども達が輝いてみえるのはなぜだろう?というのが「なぞ」でした。それについて議論をする中で、そこには、こども達の「自己効力感」が関係しているのではないか、という仮説に辿り着きました。ユニフォームを着ることで、「自分ならできる!」という気持ちが高まるかもしれないと考えたのです。
なぜ表情が変わるのか?キッザニアのユニフォームと自己効力感の関係
ユニフォーム・マジックには自己効力感が関係しているかもという仮説、とても興味深いです!それで調査をされたのですね。
はい。調査はキッザニアのグローバルなコミュニティで実施しました。日本だけではなく、メキシコや韓国のこども達も一緒に参加してくれて、約1,400名のデータが集まりました。
海外キッザニアのこども達の声も含まれているのですね。そこからどんな結果が見えましたか?
すごくおもしろい結果がでました。
ひとつは、こども達がユニフォームを着ることで、企業や組織の「一員である」と感じているということです。つまり、ユニフォームが、こども達の体験を「リアル」にするという素晴らしい役割を果たしていて、それをこども達が認識していることが分かりました。これは本当にすごいことで、キッザニアにいるこども達は、ユニフォームを着ることで、日常生活から離れて、その役になりきっているということにも繋がるのではないかと思います。




得点(1-4点)
□まったく感じない(1点) □あまり感じない(2点) □ややそう感じる(3点) □とてもそう感じる(4点)
図1:ユニフォーム着用による働くことへの意識変化 3か国グラフ
ユニフォームが「リアル」を生み出す力となっているようですね。
そのほかにも何か興味深い結果はありますか?
もうひとつは、年齢と「チームワークに関する自己効力感(チームで協力できると思えるか)」の関係性です。今回の調査では、来場前と後の2回アンケートを取っています。来場前の調査では年齢が「チームワークに関する自己効力感」に影響を与えていることが分かりました。しかし、来場後の調査でユニフォームの効果を加味して分析すると、年齢による違いが見られなくなったのです。つまり幼いこども達でも、ユニフォームを着ることで、「もっと年上のこども達と同様に自分はチームの一員で仕事ができる」と感じていたのです。これはとても力強い結果だと思います。

図2:チームワークに関する自己効力感に影響を与える要因分析モデル1

図3:体験後のチームワークに関する自己効力感に影響を与える要因分析モデル2
※ 図表中の*は統計的に差が有意であることを示しています。
ユニフォームを着ることは、年齢、つまり経験の差を超えて、こども達にポジティブな影響を与えていたのですね。これはどのような意味があるのでしょうか。
キッザニアにおける自己効力感を考えるうえで、こども達が仕事を「できる」と感じることはとても重要だと考えています。こども達が、心の中の「何か」を切り替えることで、職業体験が成功する可能性が高まるのだとすると、ユニフォームが、その切り替えを助ける重要な役割を担っているのだと気づかされました。
キッザニアのリアルな体験が深い学びを生む理由
今回、研究のフィールドとなったキッザニアですが、ローレンス先生が考える「キッザニアの魅力」はありますか?
そうですね。うーん、3つあると思います。まず1つ目は、提供している体験が「リアル」であることです。そして、リアルな「大人になる経験」が、できることがすごく良いと思います。私がこどもの頃、毎年、夏休みに父の職場を見学しに行く機会がありました。その時、「ここで働いているって、すごくかっこいい!早く大人になりたい!」と感じ、父の働く姿や環境に憧れを持っていました。だから、自分を振り返ると、「早く大人になりたい」と思っていました(笑)。そういう夢がキッザニアに来たら叶いますね。

大人になることが実現する場所ですね。
はい。また、日本に住む甥っ子が幼いころキッザニアに行ったことがあると話していたのですが、もう10年以上前でもその経験をよく覚えていたんです。すごく昔に行ったキッザニアのことをよく覚えている、つまりは強いインパクトのある経験なのだと思いました。
なるほどです。2つ目は何がありますか?
2つ目は、こども達が「楽しさの中で学べる」ということです。こどもは、楽しく体験していて、自分が勉強している感覚というのが無い状態かもしれません。しかし、楽しい経験だけだと思っていたら、実は学びがたくさんあった、というのは本当に良いことだと思います。
まさに、キッザニアのコンセプトであるエデュテインメントですね!
3つ目はいかがでしょうか?
3つ目は、「循環する経済」を体験できることです。働くと、その対価を「キッゾ」として貰うことができて、さらにそのお金について、貯めるのか何か欲しいものを買うのか、自分で決めることができます。そういう学びがあるのはとても良いですね。また、大人になった気分は、こういった経験からも感じられそうです。
そこにも研究のテーマが隠れていそうですね!
そうですね。今回の調査を通じてキッザニアを知る中で、キッザニアの経済には特に興味が湧きました。例えば、キッザニアに来るこども達で、年齢によって稼ぎ方(仕事の選び方)が変わるのかなど、気になります。
キッザニア体験を教科の学びにつなげるヒント
キッザニアの魅力について3つ語っていただいたのですが、ローレンス先生が考える「キッザニアの可能性」はありますか?
2つ、アイデアがあります。ひとつは体験後、学校などでキッザニアと数学や社会といった教科教育との関係性を示すことです。
もうひとつは、こどもだけでなく、もっと大人に目を向けることもあっても良いかもしれないと思っています。「大人のキッザニア」もありますが、人生100年時代に入った今、折り返し地点に立った大人たちが「セカンドキャリアに何しよう」と感じたときに、役に立てる施設でもあると思います。「キッザニア シニア」みたいな感じで!(笑) そういう視点で考えると、キッザニアには本当にさまざまな可能性があると思っています。

ユニフォーム・マジックが育むこどもの自己効力感
研究の結果から、「ユニフォーム・マジック」は、こども達がもつ「自己効力感」と深く結びついていることが見えてきました。
キッザニアでユニフォームを着ることは、日常の自分から離れ、社会の一員としての「役割」になりきるための、心のスイッチになるのではないでしょうか。また、調査では、ユニフォームによって年齢の差を超え、「チームで仕事ができる」という自信を持てることも分かりました。
ローレンス先生が仰るように、この「リアルさ」があり「没入できる環境」こそが、こども達の「自分ならできる」という感覚を力強く後押しします。環境にちょっとした仕掛けがあることで、こども達が自信をもって一歩を踏み出せるということが、学校教育の場におけるヒントになっていましたら幸いです。
次回は、インタビューの後編としてこども達の「自信」や「やる気」を育む環境づくりを深堀りしました。学校教育の場で活かせるアイデアをお届けしたいと思います。

今回のコラムでもご紹介している『キッザニア白書2025』はこちらからご覧いただけます
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