就学前のこども達にとって大切な好奇心・探究心を育むために

2025.12.24 学びのヒント
こども達は生まれながらにさまざまなことに興味を持ち、「あれはなに?」「もっと知りたい!」という気持ちで満ち溢れています。また、文部科学省「幼児教育部会における審議の取りまとめについて」[1]においても、就学前に育みたい資質や能力として「好奇心」「探究心」の醸成が期待されています。これらの資質や能力は、日常的な他者との関わりや、周囲の大人の支えが大切であるとされているのですが、実際に、周囲の大人たちは、どのように関わっていけばよいのでしょうか。
このコラムではこれまで公立保育園に務められ、現在は武庫川女子大学 教育学部の講師をされている岡田 朱世先生より、好奇心や探究心の育み方についてご紹介いただきます。

【執筆・監修者紹介】岡田 朱世 先生


保育所や子育てひろばでの勤務を経て、現在は武庫川女子大学教育学部教育学科にて、保育者養成に携わっています。大学では「保育内容・環境」や「保育実習指導」などを担当。「保育内容・環境」に関する保育実践や保育者の職能成長について研究しています。

就学前のこども達にとって大切な好奇心・探究心とは

 就学前のこどもにとって大切なことは沢山あるのですが、今回は「好奇心・探究心」というキーワードに注目してお話をしていきたいと思います。
 最初に「好奇心」「探究心」という言葉について確認しておきましょう。
「好奇心」とは、新しいことや珍しいことに対して興味をもつ気持ちのことを言います。人は誰でも生まれた瞬間から好奇心のかたまりで、「なんだろう?」「触ってみたい」「やってみたい」と、周囲の環境一つひとつに働きかけ、関わりながら、さまざまなことを発見し、知っていきます。「探究心」は物事についてより深い知識を得たり、その原因や仕組みを解明したりしようとする意欲のことを言います。これは好奇心から始まった興味を、「もっとよく知りたい」「どうしてそうなるんだろう?」と自ら思考を巡らせて理解を深めていく姿勢そのものを指します。こうした探究のプロセスはこどもの日常の体験から始まります。

法令などで好奇心・探究心はどのように示されている?

 では、幼稚園、保育所、幼保連携型認定こども園における保育の中で、「好奇心」「探究心」がどのように示されているのか、関連する法令などから見ていきましょう。
 平成29年告示から「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」の3文書は、可能な限り整合性を図る形で記述されています。その中で、「幼児教育において育みたい資質・能力の3つの柱」が示されました。これは小学校以降の学習指導要領に掲げられた資質・能力の3つの柱とつながっていくもので、大切な学びの土台となるものです。そして、3つの柱の中でも、「学びに向かう力・人間性等」という項目の中に、「好奇心、探究心」が要素として例示されています[1]。保育は、遊びを通した総合的な指導の中で、これらの資質・能力を一体的に育んでいくものであり、こどもが「好奇心・探究心」を抱き、知りたいという気持ちから自ら行動する「学びに向かう力」を育むことは、知識・技能の獲得や、思考力・判断力を伸ばしていくことにもつながっていく、という関係性にあると言えるでしょう。
 J.D.ハーレン・M.S.リプキンは「8歳までに経験しておきたい科学」[2]の中で、好奇心は思考を促し行動を引き出すこと、そして環境を探索するうえでの前提条件であると述べています。「好奇心・探究心」はまさに未来へとつながる学びの原点です。日々の保育でこどもが見せてくれる、何気ない「なんだろう?」という小さな好奇心の芽を大切に受け止め、「もっと知りたい」「やってみたい」という意欲を最大限に引き出せるようにしていくことが、保育者には求められています。

こども達の好奇心・探究心を育む、園やキッザニアでの事例

 では、もう少し具体的なこどもの姿を、園やキッザニアで見られる場面を例に挙げてみてみましょう。
 生後5、6か月頃になるとうつ伏せの状態から自分の力で顔をあげた姿勢をとることができるようになってくるので、視界がさらに広がり、それに伴って周囲の世界への興味もまた大きく広がっていきます。少し離れた場所にある、はじめて見るおもちゃに興味を示し、「あれはなんだろう?触ってみたい」という気持ちから、手に入れようと腕を一生懸命に伸ばしたり、脚を動かしてみたりを繰り返します。この試みが、やがて「ずりばい」へとつながり、前進するようになります。このように好奇心は、赤ちゃんにとっては自ら体を動かそうとする原動力となり、運動能力の発達を促すことにもつながっているのです。
 キッザニアでは、沢山のアクティビィがあり、まず何に挑戦するか選ぶところで、こどもの好奇心が刺激されている表情を見ることができます。普段の生活で馴染みがあり、自分に出来そうだとイメージが湧き、「やってみたい!」という表情で選ぶ子、初めて見るものでできるかわからないけど「やってみたい!」と期待と不安が入り混じった表情で選ぶ子、とさまざまです。このように好奇心を発揮し、自分の心と相談しながらこどもはさまざまなことを選んでいるのです。

 探究心についてもこどもの姿を例に挙げてみましょう。
 園庭でダンゴムシを見つけた時には、「この黒くて動いているものはなんだろう?」という純粋な好奇心から触ってみることでしょう。こどもは触っているうちに丸まることを知ったり、足が何本あるのか気になって数えようとしてみたり、家はどこにあるのかと気になって巣まで追いかけて行ったりします。生まれてきた疑問に対して、自分なりに仮説を立て、観察し、試行錯誤しながら、その小さな疑問の答えを懸命に見つけようとします。時には図鑑を使って調べたり、友達や保育者と相談したりしながら、気付いたり、発見したりする面白さを味わっていきます。このようにしてこどもは日々の生活や遊びの中で、周囲の環境と積極的に関わりながら、物事を深く探究する力を育んでいきます。
 キッザニアのアクティビティの中でも、こどもが自分なりに考えて探究する場面が沢山見られます。例えば、スーパーバイザーが示す見本に、どうすれば近づけるのかを考えたり、一緒に体験する友達の様子を見て新たなアイデアが生まれたり、そのサービスを届ける相手がどうすれば喜んでくれるかを考えて試行錯誤する姿などが挙げられるでしょう。

好奇心・探究心を育むために必要な3つの視点

 では具体的にどのようにして「好奇心」「探究心」を育んでいくと良いのでしょうか。さまざまなことが挙げられますが、ここでは、3つの視点に絞りお伝えしたいと思います。

①空間

 まず、こどもが周囲の環境に興味や関心をもって過ごすためには、その空間が安心して過ごせる場であるということが大前提となります。不安や緊張を感じるような状況では、遊びを十分に楽しむことはできませんし、遊びの中で好奇心を発揮して探索活動を行うことも難しくなります。保育者との温かい関わりを通して信頼関係が築かれ、「自分はこの場所で受け入れられている」と感じ、安心して自己を発揮しながら遊ぶことができるということが何よりも重要です。
 また、その空間が、こどもが自分でしたいと思ったことをすぐに実行できる環境であることも欠かせません。こどもの発達に合った玩具や用具を厳選して用意し、それが使いたい時に使える場所に置きます。その都度、保育者に取ってもらわなければ遊べない環境では、こどもが抱いた好奇心にすぐに応えていくことができません。もちろん安全上の配慮が必要なものもありますが、こどもが使いたいと思った時に、自分で選んで、自分で使うことができる空間作りが重要となります。

②時間

 じっくり「繰り返し」ができる時間も重要となります。探究心をもって「もっとよく知りたい」「どうしてそうなるんだろう?」と自ら思考を巡らせて理解を深めていくためには、時間が必要です。保育者はその問いの答えをすでに知っていて、ヒントを出したり、答えに導きたくなったりすることもあるでしょうが、こどもなりの答えにたどり着くまで見守るということも、大切な援助です。時には、その日のうちに答えにたどり着かつかないこともあるでしょうが、こどもの「不思議だ」と思う気持ちに共感したり、試行錯誤する姿に寄り添って一緒に悩んだりしながら、探究することの面白さに気付けるような関わりをしていきたいですね。「できた」「わかった」という満足感は、「またやってみたい」という気持ちにつながっていきます。ぜひ、その繰り返しが可能となる時間設定が日々の保育の中にあるか、確認してみてください。

③仲間

 「好奇心」を抱くきっかけは、友達が夢中になって取り組んでいるから、という場合も多くあります。また、「探究心」を深めていく過程においても、友達の様子を見て新たなヒントに気付いたり、互いに考えたことを伝え合い、アイデアを共有したりすることで、思考はより深まっていきます。「こうなっているのか!」「だからそうだったのか!」と、こどもなりの答えを発見した時に、その驚きや感動を分かち合う友達がいるということは、探究する面白さをさらに高めるものとなります。探究の途中では、予測した結果にならず、「失敗だ」と感じることもあるでしょう。そんな時、温かく励ましてくれたり、新たなアイデアや方法をもたらしてくれたりするのも、やはり友達の存在です。そのため、保育者に求められることは、このこども同士の関係を支えることです。実は同じような興味をもって遊んでいるのに、こども同士がお互いに気付いていない時に、そっと橋渡しをして関わりを繋ぐような援助が、大切になります。そのためには、普段からこども一人ひとりがどのようなことに興味関心をもっているのか、しっかりと日々の様子を観察し、理解しておくことが必要となります。

このように、目の前のこどもが抱く一つひとつの「なんだろう?」は未来の学びへと繋がる大切な問いです。それを受け止めながら、保育者の皆さんも好奇心と探究心をもって、こどもと一緒に知ること、発見することを楽しんでいただけることを願っています。

執筆者:岡田 朱世 先生

キッザニアでこども達の好奇心・探究心を育もう

こども達の好奇心・探究心を育むためには、「安心できる空間」「じっくり取り組める時間」「探究の仲間」が鍵であり、大人は、こども達に寄り添ってその興味関心を理解していることが重要であることが分かりました。キッザニアでは、こども達が安心して挑戦できる場を提供するために、こども達を支える存在として、こども達の「ちょっと先輩」となって一緒に体験を行うスーパーバイザーの存在があります。スーパーバイザーは、体験に来てくれたこども達へポジティブな言葉で声かけすることを心がけ、その体験が楽しく気づきに満ちたものになるように応援をします。そして、限られた時間の中でもそれぞれのこども達のペースで体験ができるよう、できる限り見守り、必要な場合にはさりげなくサポートをします。また、キッザニアの体験は、その多くが4~8人ほどの仲間と一緒に取り組みます。そこでは、はじめて出会うこども同士での発見や、気づきを得るきっかけも生まれているのかもしれません。

このようにキッザニアでは、こども達の好奇心・探究心を育むことができる環境が用意されていると考えられます。そしてこれからも、こども達の興味に寄り添いながら、より良い体験を提供することを目指してまいります。

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出典)
  • 文部科学省 中央教育審議会 「幼児教育部会における審議の取りまとめについて(報告)資料1」2016年
  • J.D.ハーレン, M.S.リプキン 著, 深田昭三, 隅田学 監訳, 『8歳までに経験しておきたい科学』, 北大路書房, 2007.